
「日本の民芸玩具の物語と精神」
2020/10/6
飯島さんと臼田さんは、建築を除くあらゆるデザインを手がけるデザイン会社「アトリエタイク」の共同代表です。仕事に情熱を持ち、やりがいのある経験を追求しているお二人は、その過程でクライアントの商品やサービスのファンになることもしばしばだそう。2012年には、全国の職人さんが手作りした民芸品のおもちゃを販売、紹介する小さなお店「アトリエガング」をオープンしました。一般の方にはあまり知られていないこれらのおもちゃを知るために店を訪れました。こんなに深く、スピリチュアルな意味を持っているとは思っていませんでした。
玩具とは何か?
-2012年に会社の1階に玩具を販売する店「アトリエガング」をオープンされましたね。玩具とは何か教えていただけますか?
臼田:翻訳しないといけないとなると、ややこしいですね。英語では「フォーククラフトトイ」と言いますが、正確には「トイ」つまり「おもちゃ」ではありません。
その起源は歴史的にははっきりしていません。江戸時代に「郷土玩具」と呼んで人々が集め始めたとも言われています。どちらかというと、すでに存在していたものを定義するために生まれた言葉ではないでしょうか。親が子供に与えるおもちゃであったり、神社の授与品だったり、その土地の習慣や行事、年に一度の祝い事を反映したものであったりと、その由来は様々です。
飯島:自然発生的というか。
臼田:日本には「郷土玩具の会」というものがあります。会員は玩具の収集家や愛好家たちで、多くが男性です。
飯島:日本の子供たちは、昔は確かに郷土の玩具で遊んでいました。でもプラスチックが出てきて、新しいおもちゃが大量に作られるようになって からは、玩具は子供のものではなくなり、大人の趣味になってきました。私たちはコレクターに届けることだけを目的としているわけではありません。玩具の色や個性、物語を通して、玩具の魅力を知ってもらうことを目指しています。
ちなみに「郷土」という言葉は「地域の」という意味ですが、私たちは「郷土玩具」という呼び方はしていません。「民芸玩具」と呼んでいます。「民芸」という言葉の漢字を日本語では「民」と「芸」と書きます。職人さんの仕事ぶりや美意識を感じてもらうために、あえてこの呼び方をしています。
臼田:ヨーロッパを中心に海外からのお客様も多いです。よく聞かれるのが「これは何で、元々はどんな意味がありますか?」「豊作祈願」とか「安産祈願」「病除け」など、それぞれ個々の玩具の役割を説明するのはとても簡単なのですが、一般的なジャンルとしての(民芸)玩具とは何かを定義するのは難しいですね。民芸玩具があらゆる地域に存在しますが、全て由来が異なります。中には虎やだるまのように、元々は中国から来たものもあります。
『玩具は子供たちから病気を遠ざけ、安全に成長できるように、と 、用いられてきたのかもしれません』
臼田:漢文学者の白川静さんは、著書「字統」の中で「玩具」という漢字についていくつかのヒントを与えてくれています。最初の文字「玩」はお守りを携えて健康にする、2番目の「具」は「貝」に由来し、昔は女の子に貝殻をお守りとして身につけさせる風習があったことなどを説明しています。
飯島:あと、玩具は胡粉という貝殻で作った白い顔料が使われることがよくあります。だから、何か不思議な風習があったのかもしれませんね。昔は子供が色々な病気で死んでしまうことがありましたから。民芸玩具は子供たちが病気を寄せ付けず、安心して成長できるように用いられたのかもしれません。
『愛すべき[非]必需品の秘められた力〜この店の原点には黒猫にまつわる物語がある』
-2012年にアトリエガングを開こうと思ったのはなぜですか?
臼田:2011年の東日本大震災の余波があったからです。でも実は原点には黒猫に絡んだ話があるんですよ。
ある日、招き猫をプレゼントされたので、事務所の入り口に置いてみました。その後、急に仕事が増えたので、事務所を新しい場所へ移転することになりました(笑)。新しい事務所では窓に面したところに招き猫を置きました。すると毎晩、窓に面した庭に黒猫が座って、うちの招き猫を眺めて、会いに来るようにななりました(笑)。私たちは不思議に思って占い師にこの話をしました。するとその方は「黒い招き猫をもう1匹買って、事務所の電話の近くに置いてご覧なさい」とアドバイスしてくれました。
ですが黒い招き猫は見たことがなかったので、注文して作ってもらわないとと思ったんです。イエローページを見て、高崎市のだるま屋さんに電話し、招き猫を作っている職人さんを紹介してもらいました。5センチから70センチまでのサイズで言ってくれと言われ、まずは15センチでお願いしました。それで、また仕事がうまくいって!この話を聞いて周りの人がみんな欲しがるようになりました。私は次に「もっと大きな」仕事がしたいと思ってさらに大きな60センチの招き猫を作ってもらいました(笑)。電話の横に置いておいたら、次の日には海外からの大きな仕事の電話がかかって来ました(笑)。
『東北地方で玩具を作っている人が辞めてしまうかもしれないと気づいた』
臼田:最初はこの話がきっかけで黒猫を欲しがっている友達のために黒猫を作ってもらっていました。そんな中、東日本大震災が起きました。震災後、日本中の人が自分に「何ができるかな」と思ったと思います。私は東北でこういうものを作っている人たちが辞めてしまうかもしれないと思ったんです。幸いなことに、私の友人に福島出身の人がいました。震災から1ヶ月後に会いに行きました。状況は最悪でした。しかし、友人が三春張子の人形を作っている有名な職人さんの橋本さんを紹介してくれました。橋本さんの家は江戸時代から続いています。そこで、和紙を貼りながら仕事をしている93歳のおばあちゃんに出会いました。結婚のお祝いに植えた桜の木にしがみついて、地震を乗り切ったそうです。また、80年前から人形を作っていたことも話してくれました。その出会いが全ての始まりでした。この職人さんたちのために何かしたいと思いました。
『職人さんたちはみんな、なんでこんなことするんだ?と言いました。なんで こんなことしてるんだ?売れないよ、儲からないよ。って。でも私は、日常生活では何の役にも立たない、売れない、お金にはならない、という[非]必需品だからこそ、民芸玩具は大切で必要なものだと思っています。』
臼田:もう一人、静岡県浜松市出身の友人がいました。浜松で張子人形を作っている二橋さんに会いに連れていってくれました。その女性は80歳くらいの方でした。普通、このような職人さんが父から子へと事業を継続していることが多いのですが、ここの場合は女性が中心になって作っている珍しい工房です。注文が多くストレスが溜まっているが、時間があれば作ってくれるとおっしゃいました。
『あるプロセスから生まれたものは、ある種の力を持つと信じています』
臼田:そうしてこの店を始めました。職人さんたちはみんな、なんでこんなことするんだ?と言いました。なんでこんなことしてるんだ?売れないよ、儲からないよ。って。でも私は、日常生活では何の役にも立たない、売れない、お金にはならない、という[非]必需品だからこそ、民芸玩具は大切で必要なものだと思っています。その意味を説明するために、山形県の有名な職人さんから聞いた逸話をご紹介します。彼はコマやこけしの職人です。
ある日、ある人がやって来て、小さなこけしを買った。数日後、この人から電話があり、こけしを買った理由を説明してくれたそうです。彼らは家を失い、仮設住宅で生活していました。落ち込んで何もする気力が出ない。ふと、住んでいた家にはテレビの横にこけしが置いてあったことを思い出し、無性に欲しくなった。そして仮設住宅にこけしを飾ったところ、ようやく心地が落ち着いて元気になってきたそうです。ある過程から生まれたものには、このような力があるのではないかと思います。
飯島:私たちはよく、民芸玩具のことを「愛すべき生活[非]必需品」と呼んでいます。日常生活には必要の無いものかもしれませんが、その場の雰囲気や人の心に影響を与えるものです。
『玩具に適した場所を見つける』
-お店 にはどのようなお客様が来店されていますか?
臼田:うちには日本人のお客さんが常連さんとして来てくれています。例えば仙台のお客様で、玩具の研究をしていてお店に来るたびに何かを買ってくださいます。外国の方も多いですね。もうすぐ調布市に引っ越しますが、今は代々木上原にあるので外国人が多く人気があります。一度海外からいらしたお客さんがいくつか購入して帰っていって、その後、当店のインスタグラムの海外からの閲覧が急に増えました。その方のインスタグラムを見てみると、オランダのフォロワー数の多いデザイナーでした。その後、ヨーロッパからのお客様が増えました。
-お店で紹介する民芸玩具の選び方は?
臼田:完全に私たち個人の感覚によると思います。作った職人さんの名前はあまり気にしていません。大切なのは、アトリエガングに合うかどうかです。
飯島:私たちはデザイナーなので自分たちの美意識やスタイルがはっきりしていて、それに合うようなものを選んでいます。
臼田:特に色に関しては、ディスプレイの仕方を工夫しています。
少し前にTime Out Tokyoの取材がありました。店内がポップでカラフルなので、現代的なものをセレクトしていると思われていました。
-現代の住宅で、このような伝統的なものをどのようにディスプレイすればいいのか、アドバイスはありますか?
臼田:今まで一番上手に飾っているのは、日本人でなくイスラエルの友人たちでしょうか。彼らはオブジェとして見せるのがうまい。飾り方にテクニックがあるわけではなく、個人の美意識の問題なんです。
飯島:一番大事なのは、飾って楽しむことだと思います。玩具って個性的でユーモアがあるんですよ。だから意外なところに置いてみると楽しそうに見えますし、見方も広がると思います。先入観を捨てて、遊び心を持つことが大切ですかね。
『玩具は可愛くてユーモラスですが、なかにはちょっと怖いものもあります』
臼田:ものには本当に雰囲気を作る力がありますし、子供たちはものがどこにあるべきかの感覚がいいんですよね。本能的にものを置く。その感覚が大事だと思います。